予測市場はいつ不確実性を解消するのか:Polymarketにおける取引中の信念変動と解決時ジャンプ
著者:安東 星琉(京都大学大学院経済学研究科)
キーワード: 予測市場、Polymarket、情報集約、イベント不確実性、実現信念変動、解決時ジャンプ
研究課題
予測市場の価格は、取引を通じて少しずつ情報を織り込むのでしょうか。それとも、最終結果が確定する瞬間まで大きな不確実性が残るのでしょうか。本研究は、各市場の価格変動を次の2つに分けることで、この問いを検証します。
- 取引中の実現信念変動(Trading RV):市場が開いている間の価格変動
- 解決時ジャンプ(Resolution Jump):解決直前の価格から最終結果へ移る際の変動
両者を比較することで、市場が不確実性を取引期間中にどの程度解消し、どの程度を解決時まで残していたかを記述します。
データと方法
2026年7月3日時点で取得したPolymarketのクローズ済み市場を対象とし、価格履歴と市場属性を組み合わせて分析しています。
| 分析段階 | 市場・イベント数 |
|---|---|
| 取得したクローズ済み市場 | 1,578,120市場 |
| 分析条件を満たす母集団 | 540,162市場 |
| 再現可能な層化サンプル | 30,000市場 |
| サンプル内のユニークイベント | 21,281イベント |
| 日次価格履歴を利用できる市場 | 11,531市場 |
| 日次分析のユニークイベント | 8,807イベント |
30,000市場の抽出では固定シードを用い、取引量が欠損している層と、観測された取引量の四分位層から比例配分しています。日次分析では複数の観測期間を重ね、合計23,621件の市場・期間データを作成しました。
主な指標
- JumpShare:取引中の変動と解決時ジャンプを合わせた総変動のうち、解決時ジャンプが占める割合
- TradeShare:総変動のうち、取引中の実現信念変動が占める割合
この2指標は合計で1となり、情報が「取引中」と「解決時」のどちらで価格に反映されたかを比較できます。
主な結果
日次価格履歴を利用できる市場では、取引中と解決時の双方に相応の変動が確認されました。
| 指標 | 結果 |
|---|---|
| 平均Trading RV | 0.0686 |
| 平均Resolution Jump | 0.0692 |
| 平均総変動 | 0.1378 |
| 平均JumpShare | 0.3903 |
| 中央値JumpShare | 0.1715 |
| 平均TradeShare | 0.6097 |
JumpShareは観測期間に強く依存します。同じ市場でも、30日前から観測した場合は0.1663、12時間前では0.3403、6時間前では0.2163でした。したがって「不確実性がいつ解消されたか」を評価する際には、価格を観測する時間幅と頻度を明示する必要があります。
イベント類型では、予定された発表や公式決定に関する市場でJumpShareが最も高く、物語・社会的話題に関する市場で最も低い傾向がみられました。また、累積取引量が多い市場ほどJumpShareが小さいという明確な証拠は得られませんでした。市場全体の取引量は、純粋な流動性だけでなく、市場規模や注目度も反映する指標として慎重に解釈しています。
実務的示唆
- 予測市場の評価では、最終的な的中率だけでなく、解決前にどれだけ不確実性を縮小できたかを見る必要があります。
- 公式発表で結果が確定するイベントでは、取引が活発でも解決時リスクが残る可能性があります。
- 予測市場を意思決定やイベント連動型商品の設計に利用する場合、解決時ジャンプを独立したリスクとして扱うことが重要です。
解釈上の注意
JumpShareは、特定の観測期間・頻度と、利用可能な価格履歴を持つ市場を条件とした記述指標です。540,162市場すべての無条件平均ではありません。
本研究の分解は価格変動のタイミングを記述するものであり、イベント類型や取引量がJumpShareを因果的に変化させることを示すものではありません。また、価格履歴を利用できる市場と利用できない市場の違いにも留意が必要です。
論文情報
When Do Prediction Markets Resolve Uncertainty? Belief Variation During Trading and Resolution Jumps on Polymarket
SSRN掲載日:2026年7月24日
